パスポートの更新に行った話

パスポートの更新に行った話

2023/2/16

なんのジンクスか知らないが、自分が台本なり演出なり、船頭の役割を担っている時期は なぜか毎度家族に体調不良者がでる。
母娘の関係を描いた一度目は、母ががんの再発で入院。 おばあちゃんのお葬式が重要なモチーフになった二度目は母方の祖母が危篤に。 日米関係も重要な要素の一つである三度目の今回は、父方の祖母のがんが全身に転移し重態だという。
本番が終わったらすぐ会いに行くべく航空券を手配しようとしたら、 コロナ禍以来閉じたままだったパスポートの期限は年明けに切れており、慌てて申請に。
窓口の方が私の古いパスポートをペラペラめくりながら「こちらの失効したパスポートは穴を開けますが、まだ有効のビザはないですか?」と、ビザ面を見せてくれた。 「ないです」と答えながらも、私は彼女の見せてくれたページたちに貼り付けられたビザや、押されたスタンプの色の鮮やかさに吃驚した!
そうだった、この10年、私は様々な土地へ旅させてもらったのだった。


もちろん、海外と行き来するような仕事をする方からすれば、ちっとも大したことない数だとは思うが、一つ一つの土地での体験は非常に色濃く、すべて今の私を形成する要素だ。
セルビアでのテンペストの上演、
コメディ・フランセーズで見たElectra/Orestes、
モザンビークで出会った若者たちや象たち、
南アフリカの国境フェンスで見た穴、
ロッテルダム国際映画祭に、監督と深夜に半分寝ながら見たノイズ系バンドのライブ、
シビゥで観た世界中の演劇、
シャウビューネの当日券列に並びながら大好きな人たちとだらだら喋っていたこと、
そこに来た劇場付きの俳優はあくまで日常の中の「営み」として演劇をしており、 何をかっこつけるでもなく、ただそこにいる並びの客たちと世間話をし、そのまま保育所の子どもを迎えに自転車で去って行ったこと。

私たちは関係性の「点」である。
固有のアイデンティティなぞという概念ははなはだ怪しいものであって、私たちは他者によって何百万通りもの「私」を規定され、そのすべてを同時に揺らぎながら生きるプリズム体である。(何)(ニーチェがそんなことを言っていたような)
そしてまた、そのことを体感を通して教えてくれるのは、やはり世界の色んな場所を旅することであったり、色んな次元を生きさせてくれる演劇という体験なのだ。

ちくしょう、と思う。 今航空券の値段は、みんながよく知っている事情で異常に高い。 なぜもっと頻繁に会いにいかなかったのか。 なぜもっと頻繁に感謝を伝えなかったのか。 なぜもっと英語を勉強して、彼女の人生の話を聞いてこなかったのか。
だが、とも思う。 やっぱり、出来事というのは私自身に受け止める度量がないときにはやってこないし、 受け止めるべきときにこそやってくるのだ。 後悔をできるというのもやっぱり、それだけ自分の視界が開けてきたということだと。
今私にできる一番の看病は、作品をつくりあげることだろう。 心血注いで、この作品、この物語に向き合うという、その純粋なエネルギーこそ、 最大の癒しの力となって祖母にも、或いはいろんなところですれ違ったすべての大切な人たちにも、蝶の羽が一つ、ひらめくように届くだろう。

イッツフォーリーズ新人公演 ミュージカル「人間ども集まれ!」イッツフォーリーズ新人公演 ミュージカル「人間ども集まれ!」イッツフォーリーズ新人公演 原作手塚治虫 企画協力木内宏昌 演出万里紗 音楽国広和毅 物語は、東南アジアの独裁国家パイパニアでの戦争から始まる。昭和生まれの凡人・天下太平(てんかたいへい)の特殊な精子から人工授精で生まれたのは、「男」でも「女」でもない新たな人類、「無性人間」だった。死んでもいい人間として大量生産され、世界各地に散らばった無性人間たちは、やがて優生医学の権威・大伴(おおとも)博士と、宣伝屋の木座神明(きざがみあきら)、そして生物学上の父・太平を相手どり立ち上がる。国家と広告、そして戦争とジェンダーの切っても切れない関係を手塚治虫が痛烈に描いた55年前の風刺漫画を、イッツフォーリーズ46期の新人公演としてミュージカル化。研究生たちの1年の成果をどうぞお見逃しなく。 1 2023年3月 11日(土) 14時開演 11日(土) 17時開演 12日(日) 13時開演 12日(日) 16時開演 ※開場は開演の30分前 2 浅草九劇 〒111-0032 東京都台東区浅草2-16-2 浅草九倶楽部2F TEL03-6802-8459 4 全席指定・税込   前売一般 3,500円 前売U20 2,000円(20歳以下、当日要年齢証明) 当日 3,800円 ※未就学児のご入場はご遠慮ください ※車椅子のお客様は事前にオールスタッフまでお電話にてお問い合わせください 石井菫 Staff 原作 手塚治虫 企画協力 木内宏昌 演出 万里紗 音楽 国広和毅 美術 那須佐和子 照明 三澤裕史(あかり組) 音響 松田朋子(キャンビット) 振付 東城由依 歌唱指導 德岡明 舞台監督 堀内俊哉 制作助手 大川永、近藤萌音、石井菫 プロデューサー 松本崚汰、神野紗瑛子 協力 手塚プロダクション 主催・企画・制作 株式会社オールスタッフ、ミュージカルカンパニー イッツフォーリーズ お願い ※公演中止の場合を除き、チケットの払戻・お振替は致しかねます ※ご来場前に本公演サイトの「感染症対策ガイドライン」を必ずご確認の上、ご入場ください www.allstaff.co.jp


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