SAのメシとインスタントコーヒーは不味い方がいい

SAのメシとインスタントコーヒーは不味い方がいい

習作とご質問・メッセージへの回答☺

2022/1/26

習作vol.01
「SAのメシとインスタントコーヒーは不味いほうがいい」
父の口癖である。
“どんぐり盆地”と呼ばれる、連山に囲まれた中国地方のとある村から東京まで半世紀ちかく桃を運び続けた父は、立ち寄ったサービスエリアで提供される食事に、いちいちランキングをつけるような人だった。桃シーズンの7月から8月はほとんど顔を合わせることもなく、幼い頃の私は「父親とは夏休みは家に居ないもの」とさえ思っていた。プールやらお祭りやら、遊び疲れて帰ってきて、白紙だった居間のカレンダーに赤ペンで「●●SA カレー69点 暫定15位」などと書き込みがあるのを見つけると、あ、今日帰ってきたのか、と知った。私の知る限り一番順位の低かったのは、中部地方の××SAで、「鶏レバそば」というのが10点の89位だった。
不味いほうがいい、というのは別に「不味いものを知ればより美味いものを食べるために努力するようになる」とか「不味いものを知れば美味いものの有難みが分かる」とかそんな話ではなくて、ただ単に、父は不味いものが好きだったのだ。たぶん。 大学時代、初めてできた彼氏を紹介しようと町でも有名な老舗の喫茶店に行ったら、一杯780円するブルーマウンテンコーヒーに顔をしかめて「俺やっぱり、抽出はダメね。溶かしたほうが良いのよ。」と言っていた。彼氏の佐々木くんは、「おお、そんなのがあるんすか。」と感心していた。
「ミチコ、人間の腹ってのはな、美味いもんはあっという間に消化しちゃうんだよ。良い所行って、美味いもん食うだろ。美味かったなぁと思うんだけど、あっという間に消化しちゃうから、また行きたくなるんだよ。で、またそこ行くだろ。そうすると、美味かったなぁ、っていう自分の記憶の方が美味くなっちゃってるから、また食べてみたら、アレッ、こんなもんだったっけ、って思っちゃうんだよ。それで、その体験が信じられないから、もう一回確認しに行くだろ。その時にはもう、美味いかどうかなんて感覚は麻痺していて、初めて行った体験が正しかったかどうか、頭のために食べちゃうんだな。そうしてるうちに、美味かった頃の記憶はだんだん靄みたいにかすれて、ちぎれて、消えていっちゃう。でもね、その点不味いものは良いよ。何度食べたって何度飲んだって不味い。変わらない。二度と食べるかと思うのに、手近にそれしかないと口にしてしまう。と、やっぱり不味いんだけど、そんなに不味いものを何度も何度も口に運んでる自分が可笑しくって、可愛くなってきちゃうんだよね。冷めたインスタントコーヒーなんて最高だよ。アレ飲んで不味いなぁと思いながら見た景色、父さんは全部覚えてる。」
父はそう言った。

「良いですよ~。ハイ、力抜いてくださいね~。ハイ、器具入りますからね~。」 許可もなく撮られた生殖器のエコー写真を3枚、カバンに突っ込んで職場に向かう。朝一で行った婦人科にはピルの処方を待つ女性がざっと20人近く待ち構えていて、予約を取ってなかった私は2時間半待たされるハメになった。月経不順かな、と思っていた不正出血がしかし一週間経っても止まることがなく、結局1ヶ月半も延々血が垂れ続けていたので、さすがに検査に行った。結果は1週間後。医者は、聞いてもいないのに「でもね大木さん、見て下さい。大木さんの子宮、ちょっと変わった形なんです。妊娠ムズカシイと思います。」と言った。帰りがけ、受付でピルを勧められたが、私は丁重に断って医院を出た。
薄灰色の壁に囲まれた動く歩道をグングン進んで、駅ロータリーへ向かう。人混みを避けながらエスカレーターを上り地上に出て、信号を渡り、そびえたつ真っ白なビルの陰にある関係者用扉をくぐる。入ってすぐに手指消毒をして、突き当りのエレベーターで最上階へ。エレベーターを出ると、ちょうど早番のメンバーが上がるところだ。同僚たちにオダジョーと呼ばれているドライバーの小田原さんが柔らかく笑いながら、お早うと声をかけてくる。「今日もね、お客さん一人ぽっち。これがホントのリムジンバス。」「お疲れ様です。」
カットソーとジャージー素材のロングスカートをロッカーに突っ込み、ブルーグレーのシャツと紺のスーツ、青いスカーフを身に纏う。
さて。
  Mイン・照明変化

突然始まった何かの物語にびっくりさせたならゴメンナサイ(笑)
作っていきたいなぁ、と思い描いてる作品があり、その習作をこうしてこばなしに時々投下したいと思っています。続き物になるのか、断片を掲載していくのかもまだ検討中ですが、ワーク・イン・プログレスと思ってあたたかく見守っていただければ幸いです。 忌憚なきご意見・ご感想歓迎します!
さて、先日のお約束通り、いただいたメッセージにご回答させていただきたく思います♡2通いただきました!ありがとうございます。

①先日、初めて演劇というものを見たという方から「万里紗さんがいまやりたい演劇の主題はどういったものでしょうか。」とのご質問いただきました。
まず何より、演劇を観てくださって、どうもありがとうございます!演劇人を代表して心より御礼申し上げます。そして、演劇との出会いが素敵なものであったことを心よりお祈り申し上げます。
私が関心のある主題ですが、まず「演じる側」という観点では、どんな物語であれ最終的に飛躍があるもの、たとえば些細な日常の話だったはずなのに、宿命の話になっちゃうとか、運命、罪、業、神とか(笑)そういう形而上学的な領域にぶっ飛ぶものが好きで、いつも惹かれます。シェイクスピア作品やギリシア劇などの古典にももっと挑戦していきたいなと思っています。
「作る側」という観点では、今は、個人の育った場所とナショナルアイデンティティにまつわる感覚に関心を持っています。私はドイツ系アメリカ人と日本人のミックスで、どこの国にも帰属意識を持つことがあまりなく育ちました。日本では「人種的マイノリティ」に属すので、それにまつわる偏見にさらされた経験ももちろんありますが、たとえば「白人系ミックス」である自分と、「アジア系ミックス」「アフリカ系ミックス」である誰かの経験の質はおそらく異なっている。(経験は個人の数だけあるから当たり前ですが。)そういうことについて、出会いや、取材を、重ねて、向き合っていく期間をちゃんと作りたいとぼんやり考えています。

②特別支援学級の担任をしていらっしゃるという方から、ご感想いただきました。ありがとうございます!コロナ自粛のストレスで常同行動がめちゃくちゃ激しくなった子がいたけれど、あれはストレスを逃がしてたんだなあとのこと。いやはや、メチャメチャ共感です。うちの弟くんも、コロナ禍とグループホームへの転居など身の回りの変化が重なったときにバリエーションが増えました。あまりにルーティンが多くて次の行動に移れずヤキモキしたこともありましたが、事業所の方が「最近は本人のペースに任せちゃってます~」と言ってたのを聞いて肩の力が抜けました。(笑)
朝のエスプレッソ、良いですね。私も昔のバイト先のカフェのエスプレッソが恋しいです。あのカフェのマスターは、甲府に行ってしまいました。お仕事、今日も楽しんで!

さて、このメッセージ投稿機能ですが、スイマセン、私もどこから投稿するのか分かっていません。← 投稿してくださった方、スゴイ!!(笑)その機能の使い方が分かった方はぜひまたメッセージお寄せくださいませ。
今日も寒いですね。春が恋しい。引き続き皆さんご自愛くださいませ。 以下より、メールアドレスご登録いただきますと、更新情報が届きます。そして、メールソフトからも閲覧いただけます。メルマガみたいなかんじですね。良かったらぜひ~!

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